「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則のご紹介
- 2021.02.10 | コラム
新型コロナウイルス感染拡大による経済への影響は大きく,事業者だけではなく,個人の方々も,勤務先の廃業や人員整理により職を失ったり,勤務時間の減少により収入が減少したことによって,経済的に苦境に立たされている方も増えています。
このような状況を受けて,令和2年10月30日,「『自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン』を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則」(以下,「コロナ特則」といいます。)が策定,公表されました。
これまで,「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下,「GL」といいます。)は自然災害が発生した限られた地域でのみ運用されてきましたが,今回のコロナ特則の策定により,全国で一斉に,GLを前提とするコロナ特則が適用され,令和2年12月1日より,運用が開始されることとなりました。
GLに従って債権者との合意に基づき債務整理を行うメリットとしては,次の点があげられます。
① 信用情報として登録されないため今後の新たな借入れに影響が及ばないこと
② 国の補助により弁護士等の「登録支援専門家」が無料で手続を支援してくれること
③ 原則として保証人に対し,保証履行を求められないこと
④ 破産よりも多くの財産を残せる可能性があること など
コロナ特則を活用できる対象債務は,①新型コロナウイルス感染症が指定感染症として指定された令和2年2月1日(基準日)以前に負担していた既往債務と②同月2日からコロナ特則が制定された同年10月30日までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上げ等の減少に対応することを主な目的として貸付け等を受けたことに起因する債務に限られ,個人である債務者のみが活用できます(法人は利用できません。)。
このようにコロナの影響による収入減少等のために借入をした場合でも,令和2年11月1日以降に負担した借入等はコロナ特則の対象となりません。そのため,はやくコロナ特則を知っていただければ,新たな借入をせずとも既存債務を整理することで新たなスタートが切れる方もおられるため,制度のご紹介をさせていただきました。
コロナ特則を適用するためには次のような要件も必要とされています。
① コロナの影響で基準日以前の収入・売上等が減少し,返済が困難になったこと
※ 会社員・会社役員なら原則税込年収730万円未満(パート以外の配偶者等の年収を加算)であること
住宅ローンがある場合は,住宅ローンの年間返済合計額が年収の4割以上(例外あり)であること も必要
② 基準日以前に期限の利益喪失事由がないこと
③ 債務超過(自由財産を除く資産の総額<負債)
④ 破産手続等の法的手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあること
⑤ 個人事業者で事業を継続する(事業用資産を残す)場合、将来の継続した収益の見込みがあること
⑥ 反社会的勢力でないこと
⑦ 破産法で規定する免責不許可事由がないことなど
手続としては,ローンの免除や減額等の内容を盛り込んだ「調停条項案」を作成し,金融機関に説明して,同意を取り付けた上で,裁判所の特定調停手続において調停条項を確定させるということが必要になります。専門的な知識が必要になりますが,御自身で全て対応するわけではなく,無料で登録支援専門家の支援を受けることができますので,お困りの際は,とりあえず弁護士会等に相談されることをお薦めします。
なお,GLによる債務整理を希望する場合は,まずはローンの借入先の金融機関にお問い合わせください。
岡本 成史